「花まみれの淑女たち」感想
Live doorのブログでもファンの多い、歌川たいじさんの書いた小説の感想です。
あらすじ
今まで仕事ひとすじでがんばってきた由佳だったが、リーマンショックのあおりを受けてリストラされてしまう。
しかし、ある日自分が怪しいおばあさんに尾行されていることに気づき、そこからおばあさんたちで構成された探偵チームと関わることになるのだった。
10歳も離れた相手への、由佳の切ない恋はどうなるのか?
そして、お年寄りたちを食い物にする詐欺集団を果たして追い詰めれらるのか・・・
最初の方から、自分勝手な母に振り回されてきた上に、今までの努力が報われずリストラにあう30歳の由佳の辛さが伝わってくる。
でも由佳が偶然出会ったおばあさんたちをとおして、世の中の高齢者たちも、騙されたり冷遇されても、誰にも助けてもらえないまま泣き寝入りをするしかない人が多いのに気がついた。
振り込め詐欺が私の街でもすごく多く、あちこちに罠がしかけられているなと感じているけど、私も「騙される方も少し落ち度があったんじゃない?」程度にしか考えていないことに気がついた。
一生懸命真面目に生きてきたにもかかわらず、辛酸を舐めさせられる人たち・・・
お金がある人は詐欺集団に狙われ、お金のないお年寄りは、冷たい社会の海をただようしかない。
今まさにあちこちで起きているこんな問題を我が身に置き換えるのは、あまりにも不安で怖いから、見ないように、考えないようにしているだけ・・・
でも、この小説に出てくるおばあさんたちはそんな冷たい社会に埋もれるだけではなく、お互いが手を取り合って、凶悪な権力に立ち向かう!
泣き寝入りするのではなく、戦おうとするババア軍団には、本当に胸がスカッとした。
振り込め詐欺を撃退するだけではなく、やる側の人間描写も深い。
騙す側と騙される側が実は紙一重ということもあるのかも・・・
いじめられた人が、いじめる側に回るというのも、虐待された子供が虐待しやすいということも、実際にはあるのだろう。
だけど、どこかで止めないとね。
出てくるおばあさんたちも、いわゆる「高齢者」なんてひとくくりにはできない、個性的なおばあさんばかり。
E.Tみたいに目が大きくて、植物のスペシャリストの薬袋まち子。
神秘的な雰囲気をまとったレナラ。
派手で正義感の強いヴァレンシアばばあ。
活躍したいのに、空回りしがちな悪霊ばあさん。
皆、生き生きとしたエピソードがあるのだけど、特に印象に残ったのは、E.Tと由佳のやりとり。
E.Tは、人の性質を植物に例えるのだけど、由佳を「あなたはぶなの木みたいな人ね」というのだ。
ぶなの木の意味・・・
最後に明かされるたとき、すごく感動した。
私も子供時代から20代前半くらいまで、すごく苦しい日々だったから。
今ようやく、周囲や自分自身を見られるようになった感じがする。
それにしても、以前も歌川たいじさんの小説「母さんがどんなにぼくを嫌いでも」も読んだけど、今回はまた全然違った。
あの小説は歌川さんの体験に基づいていて、すごく考えさせられた小説だった。
でも今回は創作小説で、フィクションであるにも関わらず、登場人物がすごく生き生きしているし、社会問題や恋愛なども絡んでいて、本当に面白かった。
ドラマ化したら人気出そうだなぁ。
装画は網中いづるさん。華やかなお花とおばあさんたちがチャーミングに描かれています。