「バケモンの涙」感想
歌川たいじさんの最新作の感想です。
最初「バケモンの涙」というタイトルを見た時は、いったいどんな話だろう?と思いましたが、戦争によって食糧難に陥った日本で、ポン菓子を作るために奮闘した吉村トシ子さんをモデルにしたのだそうです。
あらすじ
日本が太平洋戦争へ突入するかという時、大阪の旧家の長女として生まれたトシ子。
子供の頃から理系的な才能を持っていたトシ子だが、この時代に女性が大学で学ぶことなど許されるはずもなく、子供好きでもあったことから国民学校の教師となった。
しかし、飢えによる栄養失調で亡くなっていく子供たちに胸を痛めている中、少ない雑穀で大量にかさを増やし、消化もよくできる機械があるのを思い出し、なんとか作りたいと一念発起する。
設計図を手に入れたトシ子は家族を説得し、単身で製鉄所のある北九州に乗り込むが、なかなか前途多難な日々。
しかし、トシ子の必死な願いは、人を動かしていくのだった。
正直にいうと、実は私はあまり戦時中のお話は進んで読む気はしていませんでした。
子供の時「裸足のゲン」の映画を見た時は朝まで眠れなくなり、大人になってから「火垂るの墓」を見た時も、本当に気持ちが暗くなって数日気持ちを引きずってしまって・・・。
そんな訳で、戦時中の映画や本からは遠ざかっていたんです。
でも、この前同じ著書の「花まみれの淑女たち」を読んだら↓
とても面白くてすぐ読み終わったので、きっと戦時中の話とはいえ、深刻になりすぎず読めるのでは?と思ったんです。
最初あの時代設定に、入り込むまでは少し時間がかかりました。
なのに、気がついたら・・・
涙腺崩壊!
いや〜、本読んでこんなに何回も泣くって、そうそうないかも。
そもそもトシ子自体、頭が良く研究心が旺盛で、今だったら色々な道が拓けていた才女です。
だけど、昭和初期の戦時中、ましてや女性に学ぶ道はない。
でも、そんな茨の道でも、まっすぐ突き抜けていくトシ子。
その理由は自分のためではなく、飢えや栄養失調で亡くなっていく子供たちを少しでも救うため。
最初は「世間知らずのお嬢様」の同情心くらいに思っていた周囲も、トシ子の本気の思いにどんどん引き込まれていき、段々と協力者が増えていく。
やっぱり何事かを成し遂げるのには1番に「熱い思い」と、根気強く困難を打開していく辛抱強さを持つことなのかもしれないなぁ。
戦火で焼かれていく赤ん坊を見てしまい、何度も光景が蘇ってくる描写には、本当に胸が締め付けられました。
おそらく、モデルになった吉村トシ子さんのリアルな体験だと思います。
それにしても・・・100年も前でもない日本で、こんな風に至る所で飢餓や栄養失調、そして爆撃で死んでいく人たちが何十万人といたという事実。
この本を読んで初めて、「ポン菓子」に込められた熱い思いを知ることができました。
進んで買うことはないけど、幼稚園などで配られた、お菓子の詰め合わせなどにはいつも入っていたにんじんの形のビニール袋・・・。
昔と変わらず、シンプルすぎる甘い味。
うちの子供達はあまり食べず、私も「なんで今も入っているんだろう」と思っていましたが、まさかこんな信念に基づいて作られたお菓子だったとは!
由来について書かれた紙1枚でも入っていたら良かったのに・・・。
小学校中学年くらいから読めると思うので、小学校の図書館に置いても良いのではと思います。
ちなみに「バケモンの涙」は、個々を飲み込んでいく黒い時代の中での、一粒の慈悲のようなイメージだそうですよ。
今日は、ポン菓子入りひなあられを買ってきて、お雛様にお供えしました。
食べるときは、このお菓子の由来を話してみようと思います。