「日没」 感想
桐野夏生さんの小説「日没」を読んだ感想です。
あらすじ
マッツ夢井というペンネームで活動していた松重カンナ。
ある日、書いている小説が「倫理に反している」と読者から通報されたことから、「ブンリン」によって、更生するために療養所に収容されてることになる。
最初は反抗するものの、人との交流やネットなど情報が全て遮断された上に粗末すぎる食事など、心身ともに追い詰められ、どんどん自分の「核」となるものを破壊されていくカンナ・・・。
カンナは果たしてこの療養所から出られるのか?
「更生」とは名ばかりの、思想弾圧。
読んでいて、背筋が寒くなった。
でも怖いのは、これが全くの架空の話とは言い切れないところ。
国家ではなく、市民が簡単に誰かの思想を告発できる時代。
どこにもかしこにも、監視の目が光ってる。
悪意をもって切り取った一文で、簡単に悪者にしたてあげられる恐怖。
特に、表現活動をしている人たちにとっては他人事じゃないだろうなと思う。
いや、今や一般人だって、ふとしたことで炎上やネット中傷に巻き込まれることだってあるのだ。
でもこの中の「療養所」の描写が特に怖い。
桐野さんて本当に、残酷な人の描写がうまいのだ。
男女の残酷さの書き分けも・・・。
女性の方が本能的で感情的なのに比較して、男性は自分より立場の弱い人間にはとことん冷淡。
そして療養所で書くように強制されている「作文」は、まるで作家という魂を捨てるための「踏み絵」だ。
身体的な苦痛と、精神的な弾圧。
まるでアウシュビッツ収容所のような日々。
こんなことが実際に行われてきたし、今もどこかで行われている・・・
うわ〜、寒い寒い!
一番重要なことは報道せずに、どうでもいいニュースばかり流すメディア。
いったい日本はどこに向かっているのか?
「日没」というのは、昔「日出づる国」と言われた日本の末路なのか?
最後にかすかな希望を抱いたけど、やっぱり桐野夏生さんの小説だった・・・。
迫力のある装画は、大河原愛さんによって描かれたものです。