「推し、燃ゆ」感想

宇佐見りんさんが書いたこの小説が、今年の芥川賞に選ばれました。

ちょうど読んだ後だったので、以下に感想を書きます。(内容に触れる部分あり)

あらすじ

あかりはアイドルグループまざま座の、上野真幸を「推す」ことを中心に、生活を送っている。

「推し」をする人にも色々なタイプがあるが、あかりの場合はただひたすら上野真幸を見続け、分析し、感じたことをブログに書いたりしている。

バイトも、推しの応援のための資金。

でも、上野真幸がファンを殴ったことから、あっという間に炎上してしまう。

真幸の芸能活動が不安定になると同時に、あかりもなんとかまわしていた日常生活がままならなくなっていく。

昔は「ファン」という呼び名だったけど、今は「推し」が一般的らしい。

中高生の娘たちは、特定の芸能人が好きというわけではないけど、好きなYoutuberがいるらしく、自然に「推し」という言葉も聞いたりしているし、自分からも出ていたのに気づく。

だけど今も昔も、誰かの熱狂的なファンになったことはなかったから、芸能人の熱愛やスクープで一喜一憂する人たちの心理なんて想像したことはなかった。

なるほど、こういう人もいるのかもしれない・・・。

実際に「推し」活している人たちにも色々なジャンルがあるようだけど、あかりの場合はまさに「生活全て」。

周囲に何を言われても、推しを愛でるだけで幸せで、満ち足りているのだ。

恋愛対象だったり、自分ができないことをしている人への憧れだったり、もしくは自分がなんとしてでも応援したいと思う気持ちだったり・・・

たとえ全く手が届かない存在であったとしても、その人の生きる支えになっている、というのは案外太古の昔からの普遍的なものなのかもしれない。

だけど、あかりの周囲はそうはいかない。

アイドルだけに興味を持ち、勉強も生活もままならない娘を心配し、自立を促そうと突き放す母。

私も娘がこんな感じだったら、温かく見守るとはなかなかいかないと思う。

自分のことは全く整理できないのに、なぜ「推し」についてだけは、全てを網羅して、きれいに整頓できるのか?

根本的な生きづらさを抱える娘に対して、「やる気になればできるはず」と思いたいのかもしれない。

でも、あかりにとっての人生の道しるべがなくなった時・・・

明日からどう生きていけば良いの?

「女」である重い体を動かして、生きていかないといけない人生。

この先の、乗り越えていかないといけない、たくさんの障害。

十代の女の子が「推し」活にすべてを捧げてる。

読む前に抱いていた軽いイメージを見事なほどひっくり返された、切実さが痛いほど突き刺さる小説でした。

ダイスケリチャードさんのイラストを使った装丁も、インパクト大です。

ちなみに作家の宇佐見りんさんも、長年応援している「推し」がいるんだとか・・・。

いや、そうだよね。いないとあんな詳細に書けないと思う。

「推し」がいる人生は、きっと楽しいことなんだ。本来は・・・。

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